ベルトを用いた伝動系を理解する場合に有効な理論として,Eularの摩擦伝動理論は古典的ではありますが,非常に有用です.
ベルトに張力を与えて原動プーリ(プーリ1)と従動プーリ(プーリ2)に巻きつける.この状態でベルトを回転させても,軸受などでエネルギ損失がなければ,理論的には二つのプーリ間で動力は伝達されない.
図2-1は無負荷伝動の状態を静止状態に模擬して示したものである.今,原動プーリに負荷を与えると,二つのプーリをつなぐベルト間に張力差が生じる.
図2-2は,動力が伝えられている状態を模擬して示す.従動プーリに負荷が加わるととのバランスが崩れてを張り側張力,をゆるみ側張力と呼ぶ.また,ベルトが取り付けられた状態での張力を初張力または静止張力といい,との張力差は有効張力と呼ばれ,下式で表される.
(2-1)
今,プーリ上でのベルト張力の変化について考える.摩擦伝動ベルトの最も基本的な式としてEulerの式(Einterweinの式とも呼ばれる)がある.この式は使用されるパラメータを少なく簡単であるため,平ベルト,Vベルト,Vリブドベルトを問わず,現在でも摩擦伝動ベルトの設計計算を行う上で広く用いられている.このEulerの式は,ベルトとプーリ間の力の伝達を次のような仮定に基づいて導く.
図2-3は,角速度で回転するプーリに巻きついたベルトを示す.ここで,接触角度(ベルトとプーリが接触している円弧に対する中心角)をとする.図中,図示する位置,ゆるみ側入り口を角度の原点とし,離れた位置での微小要素(角度を考える.後述で述べるように,ベルトのプーリ入り口では,ベルトがプーリと連れ回る休止角(idle arc)がある.したがって,の原点は入口側ベルト張力が変化し始める位置とするのが正確である.
図2-4は,その微小ベルト要素に作用する力を図示したものである.微小ベルト要素にはベルト張力,,摩擦力,プーリからの反力,および遠心力()が作用する.したがって,プーリ半径方向の力のつり合いより,反力は
(2-2)
ここで,,,,およびは,それぞれベルトの断面積,密度,単位長さ当りの質量,ベルトピッチ円半径およびベルト速度(周速)である.が微小であることから,とおける.また,も微小であることから,上式は次のようになる.
(2-3)
ベルト・プーリ間の最大摩擦係数をとすれば,摩擦力は次式で与えられる.
(2-4)
(2-5)
が得られる.式(2-3)および式(2-4)を式(2-5)に代入すると,
(2-6)
となる.が微小であることから,とおける.したがって,上式は次のようになる.
(2-7)
即ち,
(2-8)
これを積分して,
(2-9)
ここで,は積分定数である.境界条件のときより,
(2-10)
また,のときより,
(2-11)
はベルトとプーリの接触角のうち,ベルトとプーリ間で動力の授受が行われている領域を示し,クリープ角(active arc)と呼ばれる.(ベルトの接触角度)であり,では動力の伝達が行われず,休止角と呼ばれる.
今,有効張力をとすると,式(2-1)および式(2-11)から,次式が与えられる.
張り側張力
(2-12)
ゆるみ側張力
(2-13)
上式で,()は遠心張力と呼ばれ,プーリ上で放射線状に働く遠心力の水平分力がベルトの張力として働く.