タイミングベルトの衝撃変形について
重量物をタイミングベルトで水平方向に駆動し、狙いの位置に精度よく停止させたいのですが、停止の衝撃によりベルトが瞬間的に伸びていることがわかっています。この瞬間的な伸び量(もしくはベルト長に対する伸び率)を重量物停止による衝撃荷重から計算したいのですが、計算方法を教えてください。
重量物を搬送中に急停止した場合のベルトの変形について,以下の系を用いて回答させて頂きます.

今,駆動プーリがCCW方向に回転し,ベルトスパン上に質量mの重量物が乗っている場合を考えます.今プーリを急停止させた場合,重量物に作用する慣性力によって,ベルトに図中右方向の伸び\lambdaが生じます.まず,重量物に作用する衝撃力を計算するために,重量物に生じる減速度aを計算する必要があります.今重量物が等減速度で運動した場合,減速度aは
a=\frac{0-v}{\Delta t} (\Delta t:停止に要した時間)
と計算することができます.(実際のベルト装置に生じる減速度は,プーリ回転数の加減速に台形駆動等を用いる場合もありますので,上式の様に等加速度運動を仮定した場合の減速度とは異なると考えられます.)
この減速度を用いれば,重量物に作用する衝撃力F(図中右向きに生じる)の大きさは
F=|ma|
と計算することができます.
ここで,ベルト上の重量物が急停止によって滑りを生じない場合,つまり,F < \mu m g\mu:ベルト-重量物間の静止摩擦係数)が成立するならば,この衝撃力によって重量物左側のベルト(l_1)が引っ張られ,伸びが生じます(右側のベルト(l_2)には圧縮方向にFが作用するので,ベルトに圧縮力が作用しますが,多くの場合,縮む(圧縮変形する)だけではなく,座屈し,たわみを生じる場合もあるので以下の計算では無視しています).この伸びを計算するには,以下の二つの方法が考えられます.
①ベルトメーカ提供の張力-伸び率の関係を用いる
ベルトによっては,メーカより張力と伸び率との関係が提供されています.これを用いる場合,
・衝撃力Fより,伸び率\varepsilonを求める.
・伸び率\varepsilonにベルト長さl_1を乗じて伸び\lambdaを求める.
\lambda = \varepsilon l_1
ベルトに生じる応力から計算する
・ベルトに作用する応力を求める
\sigma = \frac{F}{A}A:ベルトの公称断面積)
・フックの法則(\sigma = E \varepsilonE:ベルトの弾性率)から,ベルトの伸び率\varepsilonを求める.
\varepsilon=\frac{\sigma}{E}=\frac{F}{AE}
・ベルトの伸び率\varepsilonから伸び\lambdaを求める.
\lambda=l_1 \varepsilon=\frac{F l_1}{AE}
上記の様に,ベルトの伸び\lambdaを計算することができます.②の方法において,式の右辺に現れる\frac{l_1}{AE}は,左側のベルトの見掛けのバネ定数k_1の逆数と考えることも出来ます.
これを使えば,F=kxの関係から,x=\frac{F}{x}となり,x=\lambdak=k_1と読み替えて,計算することも出来ます.
プーリが逆回転する場合,l_1l_2と読み替えれば,同様に計算することができます(伸び\lambdaが生じる方向にご注意ください).
上記で求まる伸び\lambdaは,急停止時に発生する最大値であり,回転系にバックラッシや摩擦抵抗等が無い場合,停止後,十分に時間が経過した後には伸びによるズレは小さくなります.
実際の搬送ベルト機構では,プーリ間に支持台などを設ける場合もあり,ベルト歯面と支持台との間に生じる摩擦によって,ゼロにはならず.摩擦力と張力とが釣り合う位置で停止します.
また,減速時にはベルト弦部に生じる張力の向き(緩み側と張り側)が逆転しますので,それに伴うバックラッシの発生も考えられますので,上記のベルト伸び以外によって位置ズレが発生する場合も考えられます.
より詳細に検討される場合は,ベルトメーカ等に詳細をご相談されるのをお進めいたします.
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